非上場株式の評価を抜本見直しへ 第5回会合で国税庁が「残余利益方式」提示

非上場株式の評価を抜本見直しへ 第5回会合で国税庁が「残余利益方式」提示

はじめに

国税庁は8月20日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回会合を開き、非上場株式の相続税評価を抜本的に見直す方向性を示しました。会社規模別の区分を廃止し、類似業種比準方式に代えて、簿価純資産と収益力を反映する「残余利益方式」を採用する案です。今後は税負担への影響などを検証し、今秋をめどに一定の方向性を示す方針です。


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1.非上場株評価、見直し具体化

「取引相場のない株式の評価制度を抜本的に見直す」きっかけは、令和6年11月の会計検査院の指摘です。


非上場株式の相続税評価は、原則的評価方式として「類似業種比準方式」「純資産価額方式」、両方式を組み合わせる「併用方式」があります。
方式 特徴 主な適用
類似業種比準方式 業種が類似する上場会社の株価や財務指標(配当・利益・純資産)を基準にして評価する方式 規模が大きい会社(大会社)で中心的に用いられます。
純資産価額方式 会社の資産や負債を課税時期の時価で評価し直し、解散価値に着目して1株あたりの純資産額を算出する方式 規模が小さい会社(小会社)で中心的に用いられます。
併用方式(類似業種比準方式+純資産価額方式) 会社の規模や態様に合わせて、類似業種比準方式と純資産価額方式を一定の割合で組み合わせて評価する方式 中規模の会社(中会社)や、小会社の選択適用時などに用いられます。


会計検査院は、これらの評価方式の間で評価額にかい離が生じ、類似業種比準価額を適用する割合が高い規模の大きな会社ほど、株式の評価額が相対的に低く算定されていると指摘しました。


さらに、少数株主等に適用される特例的評価方式の配当還元方式についても、その還元率が近年の金利水準と比べて相対的に高い率となっている恐れがあるとし、評価制度を「異なる規模の会社間での公平性や社会経済の変化を考慮し、より適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要」と指摘しました。


これを受け、国税庁は相続税法の時価主義のもとで適正な評価制度のあり方を検討する目的で令和8年4月、有識者会議を設置しました。第1回から第4回までの会合では、現行制度の問題点や中小企業の事業承継への影響、評価額圧縮スキームなどについて議論され、8月20日の第5回会合では、これまでの議論を踏まえ、国税庁が初めて具体的な見直しの「たたき台」を示しました。


2.会社規模別の区分を廃止する方向

現行制度では、大会社は原則として類似業種比準方式、中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式、小会社は原則として純資産価額方式で評価します。しかし、適用する方式によって評価額に差が生じるため、会社規模を意図的に変えて株価を圧縮する事例が問題となっていました。


第5回会合で国税庁は、「大会社」「中会社」「小会社」という規模別区分を廃止し、会社規模にかかわらず、幅広い企業を共通の方式で評価する方向性を示しました。類似業種比準方式についても、理論的根拠や実証的な裏付けが乏しく、他の企業価値評価の分野では使われていないと指摘し、上場企業の縮尺モデルを中小企業に適用することが妥当なのかという問題もあり、同方式を存置することは困難ではないかとしています。


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3.簿価純資産に収益力を加減

国税庁が新たな方式として提案したのが「残余利益方式」です。ただし、採用が決まったわけではありません。国税庁は「仮に採用した場合」のイメージとして示しました。


残余利益方式は、直前期末の簿価純資産を基礎とし、企業が通常期待される利益を上回る「超過収益」の数年分の現在価値を加減して株価を計算します。


期待収益率を上回る利益を上げている会社は、簿価純資産を上回る評価となります。
一方、赤字会社や低収益会社では、簿価純資産を下回る可能性があります。計算に必要な資料は、基本的に直前期末の貸借対照表と過去数年分の損益計算書などです。期待収益率には、上場株式の平均期待収益率などを参考に、CAPM(資本資産価格モデル)を用いる案が示されています。


純資産価額方式は、原則的評価方式ではなく、特定の評価会社の株式を評価する方式として位置付ける方向です。配当還元方式は、対象となる株主の範囲や計算方法を見直したうえで、例外的な方式として残すことが検討されています。


4.評価額圧縮スキームにも対応

国税庁は、評価額圧縮スキームへの対応方針も示しています。
オペレーティング・リース、多額の役員報酬、一時的な役員退職金などで利益を減らす手法については、非経常的な損益を除外した「正常利益」で評価する案です。


完全支配関係にある法人間で資産や利益を移転する手法には、グループ全体で評価することで対応します。株主構成や議決権割合を操作して配当還元方式を適用する手法についても、対象株主の範囲などを見直す方針です。国税庁によると、株主構成の操作によって企業価値の総額から最大約98%も評価額を圧縮した事例があります。


今後の有識者会議の開催回数は、議論の状況次第とされており、具体的な回数や日程は公表していません。ただ、検討していくのは、残余利益方式の具体的な計算方法や期待収益率、何年分の利益を反映するか、非経常的な損益をどのように修正するかなどを詰めていくことになります。純資産価額方式の簡便化、配当還元方式の適用範囲、完全支配関係にある企業グループの評価方法なども検討課題の一つです。


新方式によって、どのような会社の評価額が上がり、どのような会社で下がるのかも重要です。国税庁は、評価枠組みの具体的な方向性が見えた段階で、実態調査のデータを用いた税負担への影響のシミュレーションを示す考えです。今回の見直しは評価の適正化が目的であり、全体として相続税を増税するためのものではないと説明しています。


国税庁では、今秋をめどに一定の方向性を示す方針でおり、その後は税制改正を経て、最終的な評価水準や税負担のあり方などが決められる見通しです。非上場株式の評価と事業承継税制は中小企業の承継負担に直結するため、今後の会合と税制改正の動向を注視する必要があります。