令和8年度改正「賃上げ促進税制」の注意点

令和8年度改正「賃上げ促進税制」の注意点

はじめに

経済産業省(経産省)、中小企業庁(中企庁)は、令和8年度税制改正に対応した賃上げ促進税制のガイドブック、Q&A、パンフレットを公表・更新しました。改正では、全企業向け措置が廃止され、中堅企業向け措置は適用要件と控除率が見直されました。中小企業向け措置でも教育訓練費に係る上乗せがなくなります。決算期や企業規模によって適用ルールが異なるため、対象事業年度を起点に確認することが重要です。
(参考:経済産業省「中堅企業向け賃上げ促進税制」中小企業庁「中小企業向け『賃上げ促進税制』」


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1.全企業向け措置は令和7年度末で廃止

賃上げ促進税制は、前年度より給与等の支給額を増加させた企業が一定の要件を満たす場合に、その増加額を基礎として法人税額または所得税額から税額控除を受けられる制度です。


青色申告書を提出する法人・個人事業主が対象となりますが、企業規模により「中小企業向け」「中堅企業向け」などの措置に分かれ、同一年度に複数の措置を併用することはできません。


令和8年度税制改正では、制度の枠組み自体が変わりました。特に注意したいのは、改正内容が一律にすべての企業・個人へ適用されるのではなく、法人は事業年度の開始日、個人事業主は対象年によって、旧制度と改正後制度のどちらを用いるかが決まる点です。決算月だけを見て「令和8年度改正だから新制度」と判断すると、控除率や上乗せ措置を誤るおそれがあります。


全企業向け措置は令和7年度末をもって廃止されました。ただし、法人では令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する事業年度、個人事業主では令和7年分及び令和8年分については、従来の制度を適用できます。


同措置では、継続雇用者給与等支給額が前事業年度比3%以上増加した場合に10%、4%以上で15%、5%以上で20%、7%以上で25%の税額控除が基本となります。教育訓練費または子育てとの両立・女性活躍支援の要件を満たす場合には、それぞれ5%の上乗せが可能で、最大35%の控除率となります。もっとも、控除額は法人税額または所得税額の20%が上限です。


全企業向け措置が廃止された後に対象となる顧問先について、旧制度を前提に試算を続けることはできません。賃上げ計画の説明や決算見込みの税額シミュレーションでは、対象となる事業年度の開始日を最初に確認する必要があります。


2.中堅企業向けは「開始日」で異なる新旧要件に注意

中堅企業向け措置は継続しますが、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から内容が変わります。


法人で令和6年4月1日から令和8年3月31日までに開始する事業年度、個人事業主の令和7年分・令和8年分は、改正前の要件を適用します。継続雇用者給与等支給額が前年度比3%以上増加なら10%、4%以上増加なら25%を控除でき、上乗せ要件を満たせば最大35%となります。


一方、法人で令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度、個人事業主の令和9年分は、改正後の要件を適用します。賃上げ要件は4%以上で10%、5%以上で15%、6%以上で25%となり、改正前より判定のハードルが上がります。教育訓練費に係る上乗せは廃止され、子育てとの両立・女性活躍支援の要件による5%上乗せのみが残ります。最大控除率は30%で、税額控除額の上限は従来どおり法人税額または所得税額の20%です。


中堅企業向けは、青色申告法人または個人事業主で、法人では事業年度終了時、個人事業主では年末時点の常時使用従業員数が2千人以下であることなどが前提となります。さらに、支配関係にある法人を含めた従業員数が1万人を超える場合は対象外となるため、グループ会社を持つ顧問先では規模判定も見落とせません。


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3.中小企業向けも教育訓練費の上乗せが終了

中小企業向け措置は、法人では令和9年3月31日までに開始する事業年度、個人事業主では令和9年分までが対象です。雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上増加した場合は15%、2.5%以上増加した場合は30%の税額控除を受けられます。子育てとの両立・女性活躍支援の要件を満たす場合は5%の上乗せがあり、税額控除率は最大35%です。控除しきれない金額については、一定の要件の下で5年間の繰越しが認められます。


ただし、教育訓練費に係る10%上乗せは令和7年度末で廃止されました。法人では令和8年3月31日までに開始する事業年度、個人事業主では令和8年分までが従来の上乗せ措置の対象です。令和8年4月1日以後に開始する事業年度で教育訓練費が増えていても、この上乗せを前提に控除率を試算することはできません。


中小企業者等の判定も、単に資本金1億円以下かどうかでは終わりません。前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外です。また、大規模法人から一定割合以上の出資を受ける法人なども除外されます。顧問先の資本関係に変動があった場合は、従業員数や給与データだけでなく、出資関係も含めて適用可否を確認すべきです。


4.税額計算の前に確認したいポイント

実務では、まずどの区分の制度を使うのかを確定し、次に対象事業年度または対象年を確認します。そのうえで、給与計算データから「雇用者給与等支給額」「比較雇用者給与等支給額」「控除対象雇用者給与等支給増加額」を整理します。パート・アルバイト・日雇い労働者も国内雇用者に含まれますが、役員や役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれません。


雇用安定助成金額など、給与等支給額から控除する金額がある場合には、調整後の増加額が控除対象額の上限となります。人員増による給与総額の増加だけで要件を満たすと考えず、制度ごとに必要となる賃上げ率、集計対象、控除上限を確認することが欠かせません。


また、一定規模以上の中堅企業が制度を適用する際には、マルチステークホルダー方針の公表・届出が必要です。令和8年度改正に合わせて届出書の様式も変更されました。公表期限は適用事業年度終了日まで、届出期限はその翌日から45日を経過する日までです。事業年度ごとに届出が必要であるため、申告直前に確認するのではなく、決算前から手続スケジュールを共有しておくことが求められます。


今回の改正は、賃上げを行ったかどうかだけでは適用関係を判断できない改正です。企業は「賃上げ率」「企業規模」「事業年度開始日」「上乗せ措置の有無」を一体で示す必要があります。


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