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はじめに
国税庁は「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」を公表しました。
令和8年度税制改正に伴い、基礎控除や給与所得控除の最低保障額、扶養親族等の所得要件が見直されます。ただし、給与等の源泉徴収事務は令和8年11月まで変更されず、実務上の山場は12月の年末調整となります。通勤手当や食事の非課税限度額、防衛特別所得税の取扱いも含め、経理・人事担当者は適用時期を正確に把握しておく必要があります。
令和8年度税制改正により、源泉所得税関係では、基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の見直しなど、給与計算や年末調整に直結する改正が行われました。あわせて、通勤手当や食事の現物支給に係る非課税限度額の引上げ、防衛特別所得税の創設なども盛り込まれています。
1.制度の適用時期と源泉徴収実務の変更時期に注意
今回の改正で最も注意すべき点は、制度の適用時期と源泉徴収実務の変更時期が必ずしも一致しないことです。基礎控除や給与所得控除の最低保障額の引上げは、原則として令和8年分以後の所得税に適用されます。しかし、国税庁は令和8年11月までの給与等および公的年金等の源泉徴収事務には変更が生じないとしています。つまり、毎月の給与計算は11月までは従来どおり進め、12月の年末調整で改正内容を反映しての精算となります。
基礎控除については、合計所得金額に応じて控除額が引上げられます。国税庁の資料では、令和8年と令和9年分、令和10年分以後の区分を示したうえで、改正後の基礎控除額が整理されています。たとえば、合計所得金額が132万円以下の場合、令和8年・令和9年分の基礎控除額は104万円、令和10年分以後は99万円とされています。合計所得金額が2,350万円を超える場合の基礎控除額については、今回の改正対象外です。
2.12月の年末調整で改正後の控除額を反映
給与所得控除については、最低保障額が65万円から74万円に引上げられました。つまり、今回の見直しは、給与等の収入金額が190万円以下の層に影響する改正で、低・中所得層の給与所得者にとっては課税所得の圧縮につながります。
国税庁は、令和8年分以後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」についても改正内容を反映した表とする予定としています。
実務上は、令和8年12月に行う年末調整で、引上げ後の基礎控除額と改正後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」に基づいて1年間の税額を計算することになります。そのうえで改正前の源泉徴収税額表により毎月徴収してきた税額との差額を精算します。したがって、令和8年の年末調整では例年よりも還付額や不足額の発生パターンが変わる可能性があります。
基礎控除と給与所得控除の見直しに伴い、扶養控除等の対象となる扶養親族等の所得要件も改正されます。扶養親族、同一生計配偶者、ひとり親の「生計を一」にする子については、所得要件が58万円以下から62万円以下に引上げられました。給与収入だけの場合の目安では、従来の123万円以下から136万円以下へと広がります。
3.扶養親族等の所得要件も引上げ
特定親族についても、所得要件は62万円超123万円以下となります。給与収入だけの場合の目安では、136万円超197万円以下となります。いわゆる「年収の壁」を意識して働く学生アルバイトやパート層を抱える家庭では扶養判定に影響するため、年末調整時の確認が重要です。
ここで注意したいのは、要件が変わったからといって会社側が自動的に扶養控除等を適用できるわけではありません。国税庁は、改正により新たに扶養親族等の要件を満たすこととなった親族等について、扶養控除等の適用を受けるためには「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」等の提出が必要としています。従業員への周知が不十分だと、本来受けられる控除が年末調整に反映されないおそれがあるので注意が必要です。
今回のあらましでは、所得税法施行令や通達改正に伴い、令和8年4月1日以後に適用されている改正も整理されています。
4.4月から適用済みの通勤手当・食事非課税にも注意
その一つが、自動車や自転車などの交通用具を使用して通勤している人に係る通勤手当の非課税限度額の見直しです。従来の通勤距離に応じた非課税限度額に加え、一定の要件を満たす駐車場等を利用している場合には、1カ月当たりの駐車場等の料金相当額を上限5,000円まで加算できます。対象となる駐車場等は、勤務場所の周辺や通勤のために利用する駅・停留所などの周辺にある施設です。マイカー通勤や自転車通勤の従業員が多い企業では、通勤手当規程や給与計算システムの設定の確認が必要といえます。
食事の現物支給に関する非課税限度額も引上げられました。使用者からの食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額は、月額3,500円から月額7,500円に拡大されています。また、深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭について、所得税が非課税とされる1回当たりの支給額は300円以下から650円以下に引上げられました。これらは令和8年4月1日以後に支給する食事等から適用されます。
令和9年1月以後の源泉徴収では、防衛特別所得税への対応も始まります。令和8年度税制改正により防衛特別所得税が創設され、源泉徴収義務者は所得税を徴収する際に防衛特別所得税もあわせて徴収・納付することになります。防衛特別所得税の額は、源泉徴収すべき所得税の額の1%相当額となっています。
5.令和9年1月からは防衛特別所得税も始まる
一方で、復興特別所得税の税率は2.1%から1.1%に引き下げられます。防衛特別所得税1%と復興特別所得税1.1%を合わせると、合計税率は従来と同じ2.1%となるため、国税庁では、改正前後で源泉徴収税額の計算方法に変更は生じないとしています。ただし、名称や内訳は変わるため、令和9年1月以後の給与計算、報酬・料金の源泉徴収、納付書処理などでは社内資料や説明文の更新が必要です。
今回の源泉所得税改正は、内容そのものよりも適用時期の整理が実務上のポイントです。基礎控除や給与所得控除の引上げは令和8年分からの改正ですが、給与等の源泉徴収事務は11月まで変わらず、12月の年末調整で精算します。扶養親族等の所得要件も12月1日以後に支払う給与等から適用され、該当者については申告書の提出が必要になります。
6.経理・人事部門は「いつから何が変わるか」の整理が重要
一方、通勤手当や食事の非課税限度額は令和8年4月1日以後の支給分から既に適用されています。さらに、令和9年1月からは防衛特別所得税が始まります。企業の経理・人事担当者にとっては、令和8年中の年末調整対応と令和9年1月以後の源泉徴収対応を切り分けて準備する必要があります。
特に扶養判定や通勤手当や食事補助は従業員からの問い合わせが増えやすい項目です。年末調整の直前に対応すると混乱が生じるおそれがあるため、早い段階で従業員向けの案内、申告書の提出依頼、給与計算システムの改修、社内規程の確認を進めておきたいところです。なお、今回の改正は単なる税額計算の変更ではなく、令和8年末から令和9年初めにかけて源泉徴収実務全体を見直す契機となります。