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はじめに
法務省の法制審議会はこのほど、パソコン等で作成する「デジタル遺言書」の創設などを盛り込んだ「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」をまとめた。録画による本人の意思確認や、クラウド保存による改ざん防止など、法的信頼性と利便性の両立を目指す。一方で、セキュリティや制度設計に関する課題も多く、2025年9月23日まで意見募集(パブリック・コメント)を実施している。
このほど法制審議会より公表された中間試案では、負担軽減や社会のデジタル化の観点から、一定の条件のもとであれば、パソコンなどで作成した「デジタル遺言書」を認めることが明記された。
1.デジタル遺言書の検討に3案
現在、自筆証書遺言は全文を手書きし押印する必要があるが、資産家などの間では手間がかかることのほか様々な部分で負担が大きいとの指摘もあり、利便性の向上等を目的にデジタル技術を活用した新たな遺言方式の導入に向けて検討が進められている。
中間試案では、普通方式の遺言において、現在の方式に加えて遺言の本文をパソコンやスマートフォンなどにより作成した電磁的記録かプリントアウトなどした書面による方式を創設する考えだ。
具体的には、デジタル遺言書の制度化に向けて「甲案」「乙案」「丙案」の3類型が提示されており、甲案はさらに「甲1案」「甲2案」に分かれている。それぞれ、本人確認や意思表示の真正性を担保するための条件が異なる。
「甲1案」(録音・録画方式型)は、遺言者が作成した遺言書の内容を自ら読み上げる様子を録音または録画し、そのデータと遺言書をセットで提出する方式。本人性と意思表示の明確性を担保する。
「甲2案」(電子署名方式型)は、パソコン等で作成した遺言書に電子署名を付与する方式。マイナンバーカードなどを活用し、本人性と改ざん防止を技術的に担保する。
「乙案」は、公的機関関与型(ハイブリッド)。甲1、甲2の要素に加え、公的機関が作成・保存・確認に関与する方式で、録画・電子署名・身分証明書の提出を組み合わせ、信頼性を最大限高める。
「丙案」は、公証人関与型で、公証人が遺言作成に関与し、デジタル遺言書の内容を確認・認証する方式。現行の公正証書遺言に近いが、デジタル技術を活用する点が異なる。
参考:「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」
一方でこれら「デジタル遺言書」の創設にあたっては、法制審議会でも技術的・法的・運用面で多くの懸念が指摘されている。
2.本人確認の真正性の担保が課題
まず、本人確認の真正性をどう担保するかが最大の課題であり、録音・録画や電子署名を用いても成りすましや改ざんのリスクを完全には排除できない。また、遺言者の意思能力の有無や録画時の心理状態をどう評価するかも難しい。さらに、保存方法や提出先の整備、公的機関の関与範囲、データの長期保全性など、制度運用に必要なインフラの構築が不可欠である。高齢者やIT弱者への配慮も求められ、制度の複雑化によって逆に利用が進まない懸念もある。加えて、相続人間の紛争リスクや、裁判所による検認手続きの在り方も再設計が必要となる。信頼性と利便性の両立が制度設計の鍵となる。
中間試案では、これら懸念点も踏まえ国民の意見を広く聴くために意見募集(パブリック・コメント)を9月23日まで実施しており、法制審議会では最終的な答申の取りまとめに向けて、さらに検討を深めていく方針だ。
